愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 翌日になり、出席者リストに目を通しておいてほしいと、千隼さんから資料を手渡された。

「これが、今回の参加者になる。主にベルギーの政治家に、在日大使もだな。それから、こっちが日本側の出席者だ」

 思ったよりも人数が多い。
 国内の参加者は、ニュース番組で見聞きするような人物の名前もある。そんな面々に、失敗は許されないのだとあらためて気を引きしめた。

「それから、この日のために母さんが小春に着物を贈ってくれるそうだ」

「え?」

 予想外の話に、驚きの声が漏れる。

 子育てよりも人との付き合いを重視していたと聞いて、正直なところ会う前はどんな女性なのかと戦々恐々としていた。
 結局、今でも数えるほどしか顔を合せていないものの、私の中での印象はずいぶんと変わってきた。

 会えばにこやかに接してくださり、とくに嫌われているわけではないと感じている。
 容姿は千隼さんによく似た、上品で華やかな方だ。
 『小春ちゃん』と親しげに名前を呼んでもらえるし、会うときには必ず手土産を用意してくれるくらいには良好な関係にある。
 そのお礼も兼ねたメッセージのやりとりも、何回か交わしてきた。

「ああ見えて、母さんは小春をずいぶん気に入っているよ。先日発表された新作着物が小春に似合いそうだから、用意していいかと聞かれたんだ」

 義母の対外的な面を優先する信念は、今でも変わっていない。
 けれど家族を蔑ろにしているわけでもないと、なんとなくその人となりがわかってきた。
 義娘をさりげなく気にかけてくれる一面もあり、きっと優しい人なのだと感じている。

 欲を言えば、せっかく縁づいたのだからもう少し交流を持ちたくもあるけれど、それは仕方がない。会えたときくらいたくさん言葉を交わして、さらに仲を深めていこうと決めている。
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