愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 私たち親子の結びつきは、もしかしたら一般的な関係よりも強いのかもしれない。
 それは、私が中学生のときに母が他界したことが大きく影響している。

 母が病を患っている判明したのをきっかけに、私たち家族は居酒屋『紅葉亭(こうようてい)』を経営していた祖父のもとに身を寄せた。
 外交官として働いていた父は、母が寝込みがちになった頃に退職を決めている。それから、祖父の店を継ぐべく修行をはじめた。

 祖父によれば、父は高校生の頃まで店を継ぐ気でいたようで、料理の勉強をきちんとしていた。
 けれど母に恋をしていつか結婚すると決意してからというもの、安定した暮らしをさせてやりたい一心で、一念発起して国家公務員になると方針転換している。

 そんな経緯もあって料理人としては遅いスタートになった父だが、もとから料理センスは抜群な上に凝り性な性格もあり、短期間でめきめきと力をつけていった。

 常連さんに『ようやく大将に並ぶ腕前だな』と言われるまでになり、祖父は引退を決めた。
 以来、完全に店を任された父は、外交官時代に見せていたよりも生き生きと働いている。その姿に、周囲はこれが父の天職だったのだろうと温かく見守ってくれた。

 少しでも助けになればと、私も高校生になった頃から店の手伝いをしてきた。
 卒業後はもっと外の世界を知るべきだという父の強い勧めで大学に進学したが、結局、私の就職先は紅葉亭だ。

 そうやって私たち家族は、仕事も私生活も三人で支え合って暮らしてきた。
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