愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 ようやく体を離した父は雑に涙をぬぐい、私の横に立つ千隼さんに視線を向けた。

「千隼君。小春のことを頼んだよ」

 彼の手を両手で握った父が、真剣な表情と口調で訴える。

 隣の彼を、再び仰ぎ見た。
 千隼さんは、女性としては平均的な身長の私でも、見上げてしまうほど背が高い。
 目鼻立ちがはっきりした端正な容姿をしており、彼はいつだって周囲の視線を集めてしまう。ここへ来る間にも、すれ違いざまに彼を二度見する女性が何人かいたほどだ。

 長旅になるため、今はデニムのズボンにラフなジャケットを羽織った過ごしやすい服装をしている千隼さんだが、普段はしわひとつないスーツをピシッと着こなしている。
 短めの黒髪はいつだってきっちり整えられており、寸分の隙も無い姿は一見すると近寄りがたく感じるかもしれない。
 けれど、話をしてみれば優しくて責任感の強い人だとすぐに伝わるだろう。

「任せてください。小春さんのことは、俺が絶対に幸せにしますから」

 そうきっぱり宣言してくれた彼に、ドキリと鼓動が跳ねる。素敵な男性からそんなふうに言われて、ときめかないわけがない。
 この場には義父もいるため、聞かれていると思うと気恥ずかしい。そわそわしながら、肩の下まで伸びた黒髪を指で弄った。
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