愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「私も働きはじめて数年経った頃に、もう一度、結婚の話が持ち上がったのよ。その頃には先輩もめきめきと頭角を現して、出世頭と見られていたわ。古い考え方かもしれないけど、上層部の中には家庭を持ってこそ一人前って公言する人もいるの。それが山科家という後ろ盾だったら……ねえ?」
はっきり言葉にしないのは、政治家の娘ならではかもしれない。明言はしていないのに、主張は十分に伝わってくる。
山科さんと結婚していれば、千隼さんの出世は約束されたようなものだと言いたいのだろう。
「当然、千隼先輩は私との結婚を選ぶはずだった」
悔しげにきゅっと唇を引き結んだ山科さんを見つめる。
山科さんは、学生の頃から千隼さんに想いを寄せていたに違いない。〝傍にいた〟というような言い回ししかしていないが、親密だったと随所で仄めかしていた。
そして今でも同じ気持ちでいると、言動の端々から伝わってくる。
明確に断言してくれないせいで、ますます不安が煽られる。
「それなのに……話が本格化する前に、私に別の縁談が持ち上がったのよ」
山科さんは、バリバリと仕事をこなすやり手なイメージを持っていた。
そんな彼女が、今にも泣いてしまいそうな顔になる。
大物政治家の娘ともなれば、縁づきたいと希望する人はきっと多くいるのだろう。彼女のお父様がどういう考えの方かは知らないが、自身の影響力を強めるための縁談を望んでいるのかもしれない。
「候補は複数いたわ。そのうちの人は、父の第一秘書を務める男性だった。将来的に父は彼に地盤を譲ると決めて、そのためにひとり娘の私と結婚させようと考えたみたい」
世襲制ではないとしつつ、数代に渡って地盤を引き継いでいる政治家は少なくない。
彼女のお父様も、大臣を務めるほどの人だ。今まで築いてきたものを、まったく無関係な人に譲るのは惜しいと考えてもおかしくはない。
タイミングが悪かったといえば、それまでかもしれない。
醜い考えだとわかってはいるが、おかげで私は千隼さんと結婚できたのだと安堵もしてしまう。
けれど、彼の方はどう思っているのだろうか。
そう考えかけて、慌てて打ち消した。
たとえ今は離れて暮らしているとはいえ、私と千隼さんはすでに結婚して夫婦となっている。
実家の問題が片づいたら、当然またふたりでの生活に戻る予定だ。だから、過去の話に不安になる必要などないと自身に言い聞かせた。
はっきり言葉にしないのは、政治家の娘ならではかもしれない。明言はしていないのに、主張は十分に伝わってくる。
山科さんと結婚していれば、千隼さんの出世は約束されたようなものだと言いたいのだろう。
「当然、千隼先輩は私との結婚を選ぶはずだった」
悔しげにきゅっと唇を引き結んだ山科さんを見つめる。
山科さんは、学生の頃から千隼さんに想いを寄せていたに違いない。〝傍にいた〟というような言い回ししかしていないが、親密だったと随所で仄めかしていた。
そして今でも同じ気持ちでいると、言動の端々から伝わってくる。
明確に断言してくれないせいで、ますます不安が煽られる。
「それなのに……話が本格化する前に、私に別の縁談が持ち上がったのよ」
山科さんは、バリバリと仕事をこなすやり手なイメージを持っていた。
そんな彼女が、今にも泣いてしまいそうな顔になる。
大物政治家の娘ともなれば、縁づきたいと希望する人はきっと多くいるのだろう。彼女のお父様がどういう考えの方かは知らないが、自身の影響力を強めるための縁談を望んでいるのかもしれない。
「候補は複数いたわ。そのうちの人は、父の第一秘書を務める男性だった。将来的に父は彼に地盤を譲ると決めて、そのためにひとり娘の私と結婚させようと考えたみたい」
世襲制ではないとしつつ、数代に渡って地盤を引き継いでいる政治家は少なくない。
彼女のお父様も、大臣を務めるほどの人だ。今まで築いてきたものを、まったく無関係な人に譲るのは惜しいと考えてもおかしくはない。
タイミングが悪かったといえば、それまでかもしれない。
醜い考えだとわかってはいるが、おかげで私は千隼さんと結婚できたのだと安堵もしてしまう。
けれど、彼の方はどう思っているのだろうか。
そう考えかけて、慌てて打ち消した。
たとえ今は離れて暮らしているとはいえ、私と千隼さんはすでに結婚して夫婦となっている。
実家の問題が片づいたら、当然またふたりでの生活に戻る予定だ。だから、過去の話に不安になる必要などないと自身に言い聞かせた。