愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 学校の行事などふたり共参加してくれた試しがなく、おかげで幼少期はずいぶんと寂しい思いをしたものだ。

 子育ては人を雇って任せるような両親だったが、どういうわけか数年前から父がやたら俺にかまいたがるようになった。
 高校生の頃に外交官を目指そうと決めてから、父が俺に興味を持ちはじめたらしい。

『文科省に勤めておきながら、子育てにあまりにも無関心過ぎだった』

 父の実に素直な告白には、まったくその通りだと程度にしか感じない。

『そんな自分が教育の振興に携わる機関にいるなど、おかしな話だ。あまりにも情けない』

 反省を促そうなんてつもりはない。親の無関心を寂しがるほど、俺はもう幼くはなかった。
 あるのは、不自由のない生活をさせてもらった感謝だけだ。なにもかもが、今さらでしかない。

 ただ、経験者から試験の話などを聞けるのはありがたく、向こうから歩み寄ってくるのなら受け入れればいいかとくらいに捉えていた。

 進学と同時に家を出ればよかったが、生憎進んだ先は自宅から通えてしまえる範囲だった。

 両親は不在が多く、用があってもメッセージのやりとりで済んでしまう。親子の仲は決定的に不仲というわけでもないが、良好とも言い難い。

 同じ家に暮らしながら顔を合せる機会はほとんどなく、まるでシェアハウスのようだ。実家にいながらにしてひとり暮らしができているのなら、出ていく必要性も感じない。
 いずれ在学中の留学を見据えていたのもあり、それならばこのままでいいかと実家暮らしを続けていた。
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