愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 渋々とはいえ、一度甘い顔を見せてしまったせいか、父は紅葉亭で飲み明かすたびに俺に連絡をしてきた。

 都合のつかないときは、迎えをきっちり断っていた。それでも父は自力で帰宅しているのだから、やはりふざけ半分で俺を呼び出していたのだろう。

 おとなしく応じる必要はない。
 ただその結果、店や小春さんに迷惑をかけてしまうのは申し訳ない。加えて、店主の語る外交官時代の話が面白いのもあり、可能ならば赴くようにしていた。

 それに気をよくした父は、次第に遠慮のかけらもなくなっていく。まあ、もともとなかったかもしれないが。
 終いには、一緒に飲もうと誘うまでになっていた。

「いやあ、息子と飲むのが夢だったんだよ」

 己の願望を一方的に押しつけるなという不満は、なんとか言葉にしなかった。自分より年下の小春さんがいる手前、親子間の醜態は晒したくない。

「千隼、ここに座りなって」

 以前の自分ならきっぱりと断っていただろうが、渋々という体で近づく。
 まだ店の営業時間内だからと、自身の内でなぜか言い訳じみたことを考えながら、促されるまま赤い顔をした父の隣に座った。

「千隼くん、いらっしゃい。ウーロン茶でいいか?」

 店主の正樹さんとはすっかり見知った仲になっており、にこやかに声をかけられる。

「お願いします」
 
 車で来ているため、当然飲むわけにはいかない。不満そうな顔をする父は、放っておいた。
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