愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 外務省に入省した俺は、フランスでの語学研修を終えた後にスイス大使館に赴任した。
 そこで最初に携わった大きな仕事が、現地の政治家を招いた晩餐会だった。

 招待客をリストアップし、それぞれの食の嗜好を探る。そこから料理人とメニューを組み立てて、使用する食器も吟味する。

 今回の目的は、日本の文化に触れてもうことだ。
 食事は和食を用意し、国産の陶器を使用する。
 できれば箸を体験してもらいたいが、いきなりは難しいだろう。どちらでもいいように、ほかのカトラリーも用意した。

 会場に着くまでの通路には、日本の四季を感じられる装飾を検討している。
 パートナー同伴での招待になるが、男女問わず希望する方には和服の着付け体験も用意した。
 幸い着付けができる人間は現地にもいたが、十分な着物がそろわず日本から取り寄せる手配をした。

 癪だが、こんなときは母の伝手が大いに役立つ。
 母は昔から和装を好み、着物の新作発表会によく顔を出していた。あの人に声をかければ、十分なほどの数を得られるだろう。

 細部にまで気を遣い、ようやく準備が整ったと安堵したところで、念のためにと資料を見返して違和感を覚えた。
 これは見逃してはいけない気がして、残された過去の資料にも目を通していく。そうしてある議員の同伴する相手が、いつもとは違う初めての方だと気づいた。

 未婚だった頃は秘書など仕事つながりの方を伴っていたようだが、少し前に結婚をされたために今回は奥様が同伴される。
 その方の情報に目を通して、とんでもないミスに気がついた。

「この方のパートナーですが、宗教上、食事の内容がアウトかもしれません」

「本当だ。まずいな。すぐに変更しよう」

 何度も検討を重ねてようやく決定した内容を、ふたたび見直すことになる。落胆もするが、それよりも大きな失態を未然に防げて安堵した。
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