愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「正樹がさあ、小春ちゃんの将来を心配してるんだよなあ。ほら、奥さんを亡くしてるだろ。先代も歳が大きいし、自分になにかあれば娘をひとりきりにしてしまうと」
静かな車内で、父が独り言のようにこぼした。
要するに、今夜はこの話を俺に聞かせたかったのだろう。
正樹さんの心配は、もちろん理解できる。
紅葉亭を継ぐ人がいなければ、そこで働く小春さんも必然的に収入源を失う。親として、そのあたりも不安視しているはずだ。
それを、小春さん自身がどう考えているかは知らない。
「紅葉亭には、跡継ぎが必要だろ」
無視を決め込んでいればよいものの、つい言い返してしまった。
そんな俺に、父親がニヤリと笑うのを視界の端に捉える。
「店はどうとでもするって言っていたぞ。自分の代で閉めるもいいし、誰かに譲ってもいいってな。ああ、先代は料理人を婿にして継がせようかとも考えていたみたいだ。正樹だって、その伝手に頼るかもしれないな」
煽られていると気づいていながら平静を保てないのは、アルコールのせいにしておきたい。こめかみを引きつらせたのは、おそらく父に見られていただろう。
「紅葉亭が無くなれば、小春さんが悲しむだろうからな」
窓の外に視線を向けながら、なんでもないように言ってのける。
外の世界を見るように言われて大学へ進学した彼女だが、それでも最後はあの店で働くことを選んだ。
紅葉亭に対する思い入れはずいぶん強いようで、なんとしてでも存続を望むのではないか。
「だろうな。ま、なんにせよ、それはまだ少し先の話だろう。結婚に関係なく、先代の伝手で継いでくれそうな料理人を探せないこともないらしいし。とにかく正樹としては、今は小春ちゃんの将来を優先したいみたいだったぞ」
すべてが彼女の気持ち次第だが、つまりそれは、俺が彼女を求めても問題ないと言いたいのだろうか。
静かな車内で、父が独り言のようにこぼした。
要するに、今夜はこの話を俺に聞かせたかったのだろう。
正樹さんの心配は、もちろん理解できる。
紅葉亭を継ぐ人がいなければ、そこで働く小春さんも必然的に収入源を失う。親として、そのあたりも不安視しているはずだ。
それを、小春さん自身がどう考えているかは知らない。
「紅葉亭には、跡継ぎが必要だろ」
無視を決め込んでいればよいものの、つい言い返してしまった。
そんな俺に、父親がニヤリと笑うのを視界の端に捉える。
「店はどうとでもするって言っていたぞ。自分の代で閉めるもいいし、誰かに譲ってもいいってな。ああ、先代は料理人を婿にして継がせようかとも考えていたみたいだ。正樹だって、その伝手に頼るかもしれないな」
煽られていると気づいていながら平静を保てないのは、アルコールのせいにしておきたい。こめかみを引きつらせたのは、おそらく父に見られていただろう。
「紅葉亭が無くなれば、小春さんが悲しむだろうからな」
窓の外に視線を向けながら、なんでもないように言ってのける。
外の世界を見るように言われて大学へ進学した彼女だが、それでも最後はあの店で働くことを選んだ。
紅葉亭に対する思い入れはずいぶん強いようで、なんとしてでも存続を望むのではないか。
「だろうな。ま、なんにせよ、それはまだ少し先の話だろう。結婚に関係なく、先代の伝手で継いでくれそうな料理人を探せないこともないらしいし。とにかく正樹としては、今は小春ちゃんの将来を優先したいみたいだったぞ」
すべてが彼女の気持ち次第だが、つまりそれは、俺が彼女を求めても問題ないと言いたいのだろうか。