愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 学生当時、山科とは偶然にもいくつか同じ講義を選択していた。
 遅くやってきた彼女が空いていた俺の隣に座り、わからなかったことを質問されたのが知り合ったきっかけだ。

 あの頃は異性に言い寄られ続けたせいで、距離を詰められないように一線引いた付き合いばかりしていた。
 しかし真横にいる状態で声をかけられたからには無視もできず、当たり障りのない対応でかわした。

 それからは、顔を合せれば声をかけられるようになっていった。自分から近づきはしなかったが、山科にはすっかり頼りにされてしまったようだ。

 彼女の話は、講義や就職に関する内容ばかりだった。次第に警戒している自分が馬鹿らしくなり、邪魔をしてこない限りはいいかと好きなようにさせていた。

『千隼先輩は、フランスに留学したんですよね?』

 唯一、名前で呼ばれるのは引っかかった。しかし、聞けば同じ苗字の知人がいて混同するからと言うから仕方がない。
 そんな様子が周囲には親密に見えていたと知ったのは、少し経ってからだった。

『山科と付き合っているのか? あいつの父親って現職の議員のはずだし、将来を考えればまたとない相手かもな』

 友人にそんな勘繰りもされたが、事実無根だ。俺にそんな気はいっさいなく、聞かれるたびに否定した。
 結婚相手に、自身の後ろ盾となるような女性を求めるつもりもない。

 だがその噂が影響したのか、学生時代に彼女との婚約話が山科サイドから持ち掛けられた。それを、父がまだ早すぎると待ったをかけたと聞いている。
 俺の意志を確認する前に立ち消えしていたが、もし聞かされていても確実に受けていなかった。

 山科は優秀な女性で、志を同じくする者としては気が合う。だが、異性としては見られない。
 理由を聞かれても答えに窮するが、自分にとって彼女はそういう対象ではないのだから仕方がない。あくまで山科とは、同窓の仲でしかなかった。
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