愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 帰国して、再び山科との見合い話が持ち上がったときは困惑した。
 父としては、話をもらうのは二度目で、まったく知らない相手よりはいいのではないかと考えていたようだ。
 相手には息子次第だとしつつ、前向きに捉えているような返答をしていた。

 その裏には、俺が結婚の意志を見せないことへの焦りがあったのかもしれない。
 自分たち夫婦の振る舞いのせいで、俺が積極的に家庭を持とうとしないのではないか。父がそんな懸念を抱いているのは、なんとなく気づいていた。

 大臣まで務める山科の父親の立場を考えれば、俺よりも都合のよい相手などいくらでもいるはずだ。それにもかかわらず、高辻家へ打診してくる目的がわからない。
 
 強いて言えば、両親の実家がそれぞれ大きな会社を経営しているくらいか。
 それはなんらかのメリットになるかもしれないが、俺の功績ではない。山科サイドにそこを見込まれたとしても、ずいぶんと筋違いの話だ。

 今度こそは俺からも断りを入れ、父には『仕事がらみの縁談は、受けるつもりがない。相手の迷惑になりかねないから、勝手に話を進めようとしてくれるな』と釘を刺しておいた。

 それに対して、父は珍しく神妙な顔になった。

『先走ってしまって、すまなかった』

 素直すぎるところが逆に不気味だ。
 でも、とりあえず引いてくれたのならそれでいいと話を終わらせた。

 山科にはなにかの折に軽くその話題に触れて、今の自分は結婚に気持ちが向いていない程度の話をした。彼女の困った表情は、気まずさの表れだったのかもしれない。
 今でも山科は俺を頼りにしてくれるが、あくまでそれだけの関係だ。いきなり見合いなどと言われても、向こうも困惑したに違いない。
 同じ職場でぎこちなくなるのも面倒で、見合いの話は気にせず普段通りに接してきた。
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