愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 山科の件で、父にはそれなりにきつく言ったにもかかわらず、早くもお節介の虫が騒ぎだしたらしい。
 俺が、〝仕事がらみの縁談は〟と断定したような言い方をしたのもいけなかったのだろう。

 俺の見る限り、正樹さんと父は似たもの同士だ。
 一見、裏表がないような正樹さんだが、いくつもの修羅場を乗り越えてきたかつての功績を知れば知るほど、見た目通りの人だとは限らないとも思う。

 周りから手を回して外堀を埋め、小春さんの意志も確認しないまま先走って行動する未来が透けて見えるようだ。

 結婚して店を継いでくれる相手を用意されたら、さすがに彼女も断れなくなるのではないか。

 もしくは、結婚とは関係なく後を継いでくれる人をさっさと用意してしまう。その上で、彼女に条件の良い男を紹介したらどうなる?
 もちろん、実家からほど近い距離に定住し、仕事も自由にしてよいと許してくれるような相手だ。それなら小春さんも犠牲にするものはなく、気兼ねなく嫁いでいけるだろう。

 先々についていろいろと考えすぎるのは、俺の悪い癖だ。
 さすがに勝手な想像だとわかっているが、自身の気持ちを自覚したせいか気ばかりが焦る。

「なあなあ、千隼」

 すっかり黙り込んでいたが、隣から声をかけられてハッとする。

 素面であるように振る舞ってみせていたかと思えば、打って変わって茶化す口調になった父をジロリと見やった。
 この人は、本当に俺を煽るのが上手い。
< 75 / 154 >

この作品をシェア

pagetop