愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「そこはさあ、愛の力だよ。大事ななにかを手放してでもついていきたい。お前が彼女にそう思わせられるかどうかだろう」

「……」

 あまりにも真剣な表情をされるから、つい身構えてしまったのがばかばかしい。
 最初から愛のない夫婦関係しか築けていないのに、よく言ったものだとあきれた。

 ただ心情に訴えられるとは予想外で、不覚にも返す言葉が見つからない。

「千隼、気づいてるか?」

「なににだ?」

 感情を押し殺していたつもりが、つい不機嫌な声になる。
 悔しいが、ここ数年のやりとりですっかり父に気を許してしまったようだ。それを悪くないと思っている自分に、とっくに気がついている。
 なんだかんだ言っても、この人と俺は血のつながった親子だということだ。

「うちの息子ったらさあ、さっきから全部たらればの言い訳ばかりなんだよなあ」

 それを、酔っ払いの口調で言うところが気に食わない。
 しかし、もっともな指摘に反論はできなかった。さっきから調子を狂わされてばかりだ。

「お前さあ、小春ちゃんの側に生じる不都合を羅列しるだけじゃないか。千隼自身は、いっさいあの子を拒否していない」

 そして、そんなセリフだけは真面目に言い放つ。本当にこの人は、いい性格をしている。

 図星を突かれて、つい視線を逸らした。
 店でやたら強い酒を勧めてきたのは、俺を適度に酔わせて自分の望む答えを引き出したかったからかもしれない。

「なあなあ、千隼。そういうことなんだろ?」

 コロリと態度を変えて、再び酔っ払いを演じる父が忌々しい。
 父の言動に煽られて、冷静さを欠いていく。

 隣を見れば、目が合った途端に満足そうな顔をされた。
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