愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「……小春さんのことは、家庭的で素敵な女性だと思っている」

 観念して本心を明かした俺に、珍しく父の瞳に動揺の色が滲む。
 最初からこういう答えを求めていたのではないかと、眉を潜めた。

「千隼……。父さんたち夫婦が幼いお前をほったらかしにしたのは、本当にすまなかった」

 ああ、そのことかと、納得がいった。

「もう今さらだ。子どもでもあるまい、恨んでなんかいない」

 そう本音を告げれば、父は寂しそうな笑みを浮かべた。

「せめてお前には、温かい家庭を築いてほしいと願っている。以前の俺はすっかり見誤っていたが、友人の娘だとかそういう前提を抜きにしても、小春ちゃんならきっとそれが叶う相手じゃないのか」

〝以前の……〟とは、山科の話だろうか。俺が彼女に特別な感情を抱いていないと、父は後になってようやく理解した。

 父の表情に茶化しているわけではないと悟り、これまで感じていた気まずさが霧散する。

「彼女が千隼とは合わないと判断するなら、父さんはこれ以上なにも言わない。一度、小春ちゃんと見合いをしてみないか?」

 小春さんに惹かれているのは事実で、俺に断る理由などない。
 あとは彼女の気持ち次第だ。そう捉えれば、なにか吹っ切れたように心が軽くなった。

 父親らが彼女にどう話を持っていったのかは知らないが、正樹さんも賛成した上で、すぐさま見合いの場が設けられた。

 小春さんには、なにかを強要するつもりはいっさいない。
 一方的に気持ちを告げて強引に迫ったら、親同士の関係に配慮して無理にでも交際に合意させかねない。だから、すぐに気持ちを打ち明けるつもりはなかった。

 できれば俺を好きになってほしい。
 そう切望し、具体的な言葉こそ口にしないかったが、会うたびに行動で好意を伝え続けた。
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