愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 これほど離れていてはリアルタイムの詳細がわからず、彼女は見ていられないほど憔悴していく。
 俺自身も小春の実家が気がかりで父と連絡をとったが、とても〝大丈夫〟のひと言では片づかない事態のようだ。近居で手助けが可能な親戚もおらず、義祖父とふたりでは、どうにも手が回らないだろう。

 小春とはすでに結婚した後だというのに、彼女を家族から引き離してしまって本当によかったのかと頭をよぎる。
 せめて、小春の不安を軽くしてやりたい。それにはやはり、帰国させるのが一番なのだろう。

 俺に遠慮する彼女を、なんとか説得する。
 小春の判断ではなく、俺が帰るように後押ししたとなれば、彼女の中の罪悪感も薄れるだろう。

 それから、早々に日本へ帰る手続きをした。
 正樹さんの様子を聞いて、少なくとも数カ月単位の滞在になるだろうと検討づける。紅葉亭の経営も考えたら、さらに長くなる可能性もある。

 新婚早々で離れ離れになるのはさすがに残念だが、こんな事態なのだから仕方がない。
 大事なのは、小春を安心させてやること。そのためなら、少しの我慢くらいなんでもない。
 もとより彼女の希望をすべて叶えてあげようと決めていたのだから、不満はない。

 小春が帰国して一年が経った頃、そろそろベルギーに戻りたいと連絡を受けた。
 途中で何度か帰る時期の相談を受けていたが、ここまで引き延ばしたのは俺の方だ。再び日本へ戻れる機会はあまりないだろうし、なにより小春に後悔させたくない。そんな思いからの配慮だった。

 電話越しに耳にした彼女の声はずいぶん明るくて、満足のいく親孝行ができたのだろうと感じた。
 それならば、彼女をこちらに呼び寄せても問題ないだろう。

 小春との新婚生活を満喫したいと心浮きだっていたが、その直後にこちらの状況がガラリと変わってしまった。
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