愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「ちょ、ちょっと、千隼さん?」

 急にどうしたのかと、彼の背をポンポンと叩く。

「もう少し、このままで。ようやく小春といられると思うと、たまらなく幸せだ」

 長く離れていたせいなのか、さっきから千隼さんの言動がやけに甘い。

 私がベルギーを去る直前は、ふたりでデートを重ねていた。おかげで仲も深まっていたと思う。

 手をつなぎ、口づけをされる。夜は同じベッドで抱きしめられながら眠った。
 夫婦というよりは恋人のような関係だったかもしれないが、それでも確実に心の距離は近づいていた。

 離れている間は、言葉で気持ちを伝え合うくらしかできなかった。彼のこの積極的な言動は、会えなかった反動なのだろうか。
 それが正解だったらうれしい。

「ずっと、小春に会いたかった」

 私も寂しくて、早く会いたかった。
 けれど帰国したそもそもの原因はこちらにあったから、そんなわがままは言えるはずがない。

「小春も、そう思ってくれていたか?」

 背中に回された彼の手に、わずかに力がこもる。

「もちろん。いつも、千隼さんからの連絡が楽しみで。電話だって、切るのが惜しくて少しでも長引かせようとしてた」

 ただ彼の声を聞いていたくて、無意味に話題をつないでいたのには気づかれていただろうか。

「よかった」

 彼の吐息が首を掠め、体が震える。
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