愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 ようやく私を解放した千隼さんは、私の顎に手を添えて上向きにさせた。
 わずかに顔を傾け、ゆっくりと近づいてくる。口づけをされるのだと気がついて、とっさに目を閉じた。

 触れる程度に唇を重ねられ、はしたなくもそれだけでは足りないと感じてしまう。
 不満を訴える勇気はないけれど、離れていかないでほしいという気持ちを込めて、彼の纏っている服を握った。

「ん……」

 私の期待に応えるように、何度も口づけられる。
 無意識のうちに甘い声が漏れ、彼の舌に促されるまま小さく口を開けた。

 口内に熱い舌が侵入してくる。
 ゆっくりと暴いていくのは、慣れない私を驚かせないようにしてくれているのだろうか。
 深い口づけもされたことはあったが、もうずいぶん前になる。どうしていいのかわからず、彼に縋りつく手に力がこもった。

 口内を余すことなく探った千隼さんの舌は、ついに私のそれを捉えて優しく絡ませる。
 表面を擦り合わせ、合間で軽く吸われて背中がゾクリとした。なんとも言えない快感に、どんどん夢中になっていく。

 ようやく顔を離されて、溢れそうになったどちらのものかもわからない唾液を飲み込んだ。

 呼吸はすっかり乱れ、恥ずかしさに下を向く。

「小春」

 髪をなでられ、小さく肩が跳ねた。

「早急なのはわかっているが、君がほしい」

 珍しく余裕のない彼の声音に、鼓動が速くなる。
 彼がなにを求めているのかを察して、ぶわりと全身が熱くなった。
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