拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
第一章 侯爵令嬢と拾った子ネコ
うららかな春の昼下がり。
吹抜けからの採光を受け、クリスタルのシャンデリアが複雑な光を放って煌く。シェルフォード侯爵家の居間には、マリエンヌお姉様が奏でる美しいグランドピアノの音色が響き渡っていた。
私は広い居間のソファスペースで、膝の上で微睡む愛猫のラーラの背中を撫でながら心地いい旋律に耳を傾けていた。その時。
──カツン、カツン。
ピアノの音に混ざるように、廊下から小さな足音があがるのに気づく。
聞き慣れたリズムから、貴族議員を務めるお父様の帰宅を察し、ラーラを抱えてソファから立ち上がる。出迎えようと私が扉に手をかけるより一瞬早く扉が開き、お父様が顔を覗かせた。
満面の笑みを浮かべたお父様は、扉のすぐ横に立つ私のことなど目にも入らぬ様子で、居間の奥でピアノに興じるお姉様に向かって口を開いた。
「よくやったぞ、マリエンヌ!」
興奮気味なお父様の声を受け、ピアノの旋律が止まる。お父様はさらに言葉を続ける。
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