拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ファルザード様の声でハッとして顔を上げれば、半歩先を歩いていた彼が屋敷の正門まで数メートルというところで足を止めていた。
「遠回りだったのに屋敷まで送っていただいてしまって、なんだかすみませんでした」
 ファルザード様のお屋敷は中央地区の中でも南寄りのエリアだと聞いており、うちとはそれなりに距離がある。
「なに、同じ地区内だ。そう遠くもない。それに俺が、君ともう少し話していたかったんだ」
「ふふっ、ありがとうございます。私も今日はファルザード様とたくさんお話しできて楽しかったです」
 ラーラとザイオンも別れを惜しんでいるのか、交互に鳴き合っている。
「それでは、また」
「ああ、またな」
 二匹の声が止んだタイミングでファルザード様に会釈して、門扉を潜った。
 このまま別れてしまうのが名残惜しく感じ、玄関の前まで着いたところで振り返ったら、ファルザード様がパターン装飾された格子塀の隙間から屋敷の一角をジッと見上げていた。
 ……なにを見ているのかしら?
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