拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 なんの気なく彼の視線の先を追うと、彼がお姉様の部屋のあたりを眺めているのに気づく。
 私とお姉様の部屋は隣合っていて、どちらの部屋からも正門とその周囲が見下ろせる。逆を言えば、窓前に立っている人物を通りから見上げることもできるわけで。
 午後のお茶の前のこのくらいの時間、お姉様は大抵自室か居間のどちらかにいる。私の位置からは見えないが、もしかするとお姉様が自室の窓の前にいるのかもしれない。
 ……やはり、彼はお姉様に好意を寄せているのだろうか。
 熱心な視線を送るファルザード様の姿をそれ以上見ているのが居た堪れなくなり、逃げるように玄関に滑り込む。彼に肯定されてあんなにふわふわと浮き立っていた心が、再び萎れてゆく気がした。
 同時に、ファルザード様の言動ひとつでこんなにも一喜一憂している理由が分かってしまう。
 あぁ、そうか。私は彼のことが好きなんだ。だから、彼の心がお姉様に向いているかもしれないと想像しただけで、こんなに落ち込んでしまう。
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