拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 完璧には程遠い。ほんの小さな、第一歩。しかし、確かな自信を得る出来事となった。
 ……それもこれも、すべてファルザード様の助言のおかげね。ありがとうございます、ファルザード様。
 心の中でファルザード様に感謝を囁いた。
 ──ガタガタ、ガタンッ。
 馬車の走行音で、束の間の物思いから意識が今に向く。
 見れば、王家の紋章入りの馬車がすぐ近くまでやって来ていた。馬車は舗装されていない敷地内にまで乗り入れてきて、地面にくっきりと轍を残しながら建屋の前で止まった。
 そうして従者の手で馬車の扉が開かれて降りてきた御年十八歳の王太子ジェニス殿下は、線は少し細いが明るい金髪とグリーンの瞳の美青年で、華やかな装いも相まってまさに物語の中の王子様がそのまま現実世界に飛び出してきたかのようだった。
 ただし、その態度はお世辞にもいいとはいえず、見るからに気怠そうな雰囲気を醸していた。
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