拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ずっと私の足もとで大人しくしていたラーラは、なぜか殿下が現れた瞬間に、逃げるように建屋の陰に駆けていってしまった。
 どうしたのかしら? 怪訝に思ったが、列を外れてラーラを追っていくわけにもいかず、やむなくその場に留まった。
「殿下、こちらへ。この者が、ここの院長でございます」
 侍従の先導でジェニス殿下が院長先生の前に立つ。
「変わりなく過ごせているか?」
 殿下はさして興味もなさそうな様子で院長先生を見下ろして、尊大な口ぶりで問いかけた。
「はい、王家より特段の配慮と下賜を賜り、つつがなく過ごせております」
 院長先生が低頭して答えると、殿下は鷹揚に頷く。
「それはなにより。健やかな次代の育成のため、今後も励めよ」
「はい」
 殿下はそれきり口を閉ざし、続くやり取りを侍従が引き継ぐ。
「では、院長。ジェニス殿下より此度の慰問に伴う下賜品がございますので、運び出しに数名人手を」
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