拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ふいに私と殿下の視線がぶつかり、直後に殿下がグリーンの両眼を見開いて叫んだ。
 な、なに?
 殿下は人垣を割り、後列隅に立つ私のもとまでやって来ると、二の腕のあたりをグイッと掴んで引き寄せた。
「きゃっ」
 驚きと腕に感じる痛みで、小さな悲鳴が漏れた。
 殿下は私の腕を取ったまま、食い入るように見下ろしている。及び腰になりつつ、最低限の礼儀として膝を折る。
 昨日の成功体験のおかげか、はたまた、いち職員の延長として並んでいるだけの状況だからか、幸い殿下を前に全身が凍り付いてしまう事態にはならなかった。
 この状況はまるでわけが分からないが、殿下を前に体が動いてくれたことに、内心で胸を撫で下ろしていた。
「そなた、ここの者ではないな? 平民……いや、その所作は貴族か? どこの家の者だ? 名は!?」
 矢継ぎ早に問われ、慄きつつもなんとか唇を開く。
「シェルフォード侯爵家が次女、ティーナと申します」
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