拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 しかし、ザイオンに言われるまでもなく、もう言い訳はできない。あの瞬間、咄嗟に浮かんだ感情こそが、紛れもない俺の本心なのだ。
 ジェニスの素行うんぬんはすべて建前。先覚としての使命感や責任感というのも核心を外している。俺の本音は至極単純で、ティーナを他の男に渡したくない。
 ……そう。俺は彼女に惹かれている。ひとりの女性として、彼女を愛おしく思っているのだ。
「おや。そのお花、ずいぶんと綺麗に咲いているね」
 初老の婦人がティーナたちの横を通りざま、ミリアが片手に抱えた花に目を留めて声をかけた。
「あ、いらっしゃい!」
 ミリアはティーナからパッと離れると、見事な変わり身で愛想よく花をズイッと前に掲げて見せはじめる。
「へぇ。どれも瑞々しいし、色も鮮やかだねぇ。どれ、赤とピンク、それから紫のを貰おうか」
「まいどあり!」
 ティーナも来客を切欠にすっかり気を取り直した様子で、代金のやり取りをするミリアの姿を優しげに見つめていた。
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