拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 それがまさか、そんな差し迫った状況にある殿下が、政務を蔑ろにしてやって来ているだなんて考えもしなかった。
 お父様が納得いかない様子で、エイムズ卿に尋ねる。
「状況は分かりました。誓って他言もいたしません。しかし、それとティーナの婚姻話にどのような関係があると言うのですか?」
 頻回に訪れるジェニス殿下とは逆に、私はここ最近ファルザード様とめっきり会えていなかった。
 熱病の感染拡大が新聞の見出しに載るよりも前、ミリアに強請られていた土産を抱えて極短時間、孤児院に顔を出してくれたのが彼と会った最後だ。その日はたまたまジェニス殿下もおらず、久しぶりに彼の顔が見られてひどくホッとしたのを覚えている。
 ……もう十日も前になるが、あの日の彼はとても忙しそうだった。口にはしていなかったけれど、もしかするとあの時には既に熱病の一報を得て、対策で忙しく動きはじめていたのかもしれない。
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