拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ティーナは俺の申し出に満面の笑みで頷き、彼女と並び立って歩きだす。その時に、窓からこちらを見下ろすマリエンヌの姿が一瞬だけ視界の端を掠めた。
 冷ややかな眼差しは、俺だけでなく妹のティーナにも注がれていた。いや、むしろ俺に対するそれよりも……。
「ファルザード様」
「ん?」
 呼びかけられて、意識がマリエンヌから目の前のティーナに向く。
「ありがとうございます」
「それはなんに対する礼だ?」
 唐突に告げられた感謝に首を捻る。
「前に、困った時助けになると言ってくれましたよね。私、あなたの『そのままの自分を誇ったらいい』という言葉にずいぶんと助けられているんです。だから今のは、そのお礼です」
「急にどうした?」
「急にというわけではないんですが。……実は今、少しだけ難しい局面に立っていて」
 ティーナが苦い顔で、ポツリと漏らす。
 彼女の言うところの『難しい局面』にあって、なぜ俺に伝えてくるのが「助けて」ではなく感謝なのか。
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