拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 俺の隣でティーナも笑いを噛み殺している。さっきまで俺に向けていた熱っぽさは鳴りを潜め、その眼差しも既に子供たちを見守る優しげなそれへと変わっていた。
「すまんな。ここのところ立て込んでいてな」
「え? 立て込んでって……、もしかしてもう帰っちゃうの?」
 わらわらと寄って来た子供らに告げると、ミリアが首を傾げる。
「ああ。無理を言って少し仕事場を抜けてきただけなんだ。すぐに戻らなければならない」
 こうして子供らに囲まれてしまえば、ティーナとふたりきりで話すことはもう難しい。
 それに、俺が強引に出てきてしまったために、今頃ヘサームはキリキリしているはずだ。王城から派遣された担当官たちは頭が固く、データに基づいて人流制限や医療体制の改案など具体的な熱病蔓延の防止策を示しているにもかかわらず「前例がないのででき兼ねる」の一点張り。こちらの意見を聞き入れようとしない。
 急務である彼らの説得に加え、俺のアゼリア行きの調整もある。これ以上ここに留まるのは難しかった。
「なんだ、残念」
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