拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 もともとそういう段取りになっていたのだろう。特に命じずとも馬車が停車し、殿下は先に停まっていた馬車に乗り移った。
 殿下がいなくなると、また馬車が走りだす。殿下の乗った馬車は、私たちとは反対方向に進んでいった。
 当たり前と言えば当たり前だが、殿下が〝死の館〟などという感染リスクが高い場所に自ら行くはずもない。配下に危険な役を任せて、自分は王城に戻ったのだろう。
 ……なんて自分勝手な。こういう行いが、国民の心を王家から遠ざけてしまっているというのに。
 殿下が紋章入りの馬車に乗らなくなったのは、きっと世間からの風当たりが強くなり、勝手が悪くなってきたから。それを肌で感じているのなら、なぜ自身の行動を改めようとしないのか。
 一方でファルザード様は、王家に蔑ろにされてもなお、国民のために奔走している。これでは「ファルザード王」待望論が高まるのも道理だろう。
< 210 / 307 >

この作品をシェア

pagetop