拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 そして、今なら分かる。殿下が言っていた『魔物』……あれは、ファルザード様のことだと。
 カロンは馬車の速度が上がってきたら、もう逃げられないと判断したのか、押さえていた私の肩から手を離した。ただし、その視線だけは私から外さない。ジッとこちらを見つめ、私の一挙手一投足を漏らさぬよう監視していた。
 ここでふと、馬車が街路を北に進んでいることに気づく。
「あの。〝死の館〟というのは、どこにあるんですか?」
「王国の北、アゼリアとリスモンの町境にある」
 居ても立ってもいられずに尋ねれば、カロンは胡乱げにこちらを見つつ答えてくれた。
「アゼリアの!? なんてこと!」
 こんな状況にあって、不謹慎だが胸が鳴った。
「なんだ? 今になって自分が向かう先の恐ろしさに驚いたか?」
 小馬鹿にしたように見下ろすカロンに、私は小さく首を傾げた。
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