拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
第八章 再会と通じ合うふたりの心
俺がその報告を受けたのは、対策責任者としてこの地に赴いてから一週間が経った頃だった。
町の集会場の一室に設けた臨時の対策本部。書類束がうず高く積み上がるデスクで、各所にあてた指示書を認めながら耳を傾けていた俺は、筆を持つ手を止め顔を上げた。
俺の足もとで丸まっていたザイオンも、ピクンと耳を揺らしていた。
「なに? 〝死の館〟に聖女がいるだと?」
補佐官のゾーイが口にした『聖女』というのがいとし子という意味ではなく、献身的な看護に励む医療助手を称えた尊称だというのは承知していた。それでも俺の脳裏には、十日前に別れたティーナの姿が思い浮かぶ。俺にとって聖女はティーナただひとりなのだ。……俺の聖女は変わらず元気で過ごしているだろうか。
俺の出発直前に一気に広まった根拠無根のふたつの噂。ひとつは「孤児院が熱病の発生源」というもので、もうひとつが「そこに通い詰める令嬢が平民街で男漁りをし、挙句に病をもらった」という噂だ。