拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 おかしな話だ。
 貴族位でもある程度年齢のいった寡婦ならば、奉仕精神から従事することもあり得るだろう。しかし、嫁入り前の年若い令嬢が生家から離れ、ひとり勤労奉仕などあり得ない。
「……診療所の視察は、明日の予定だったな」
 本当なら赴任してもっと早い時期に出向き、直接現状を見ておきたかった。しかし、蔓延する病により生活を下支えするあらゆる仕組みが混迷を極めていた。
 特に深刻だったのが、意外にも物流の混乱だ。その影響で生活の基盤となる魔石が供給不足となっており、そちらへの対応が最優先となった。一方で、診療所を筆頭とする医療全般については悲惨な状況ではあるものの、改善のためにすべきことやるべきことは明瞭で、現地入りした俺の名で指示を出せばある程度統制が図れた。そのため俺自身は、町全体の感染対策の取り纏めに目を光らせながら、連日馬車駅などの流通拠点に出向いて直接の対応にあたっていた。
< 218 / 307 >

この作品をシェア

pagetop