拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 馬車は不要だが、田舎の土地は広く、馬がないと移動は厳しい。そのため俺は、なにかあった時の自身の足として、王都から馬車を引かせてきた二頭のうち、側役が残していった方の馬を貸し出さずに残していた。
 俺が感染対策のため口に布製の覆いを付けマントを手に部屋を出ようとすると、なぜかゾーイも慌てて覆いを付けはじめる。
「男と相乗りする趣味はないぞ」
「なっ!? それって僕、留守番ってことですか!?」
 先手を打って告げれば、ゾーイはガックリと肩落とした。ザイオンが俺の後ろに続きながら、呆れたような目を向けていた。
「留守も立派な仕事だ。指示書の残りは帰ってから仕上げる。なにか至急の案件があれば、烽火を上げろ。ではな」
 なぜ、俺が相乗りしてまで連れて行くと思うのか。先ほど有能と思いかけた評価を、速やかに撤回した。

 二時間ほど馬を走らせ、俺がアゼリアとリスモンの町境に建つ診療所に着いたのは夕方近い時間だった。
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