拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 さらに近づくと、開け放たれた窓から患者の苦しげな咳が聞こえてくる。だが、その直後には症状を気遣い、飲み物を勧める女性の声が耳に入った。
 ……少し年配のようだから、聖女とは別の女性だろうか?
 いずれにせよ要の介助職員の増員は、なり手不足で難航したとゾーイから聞いていたが、いい人材に恵まれたらしい。診療所が円滑に機能しているようで、まずはひと安心だ。
『ニャー《ん? なにやらうまそうだな》』
 ザイオンがそう言って、クンッと鼻をひくつかせる。
 すると、なるほど。別の窓から調理中の夕食と思しき料理の匂いが漂ってきて、ろくに食事を取っていない胃腑を疼かせた。
 ちなみにこの時間、建物の窓という窓がすべて開いており、俺の示した感染対策の徹底が窺えた。
「それと知らなければ、ここが〝死の館〟と恐れられている建物とは思えんな」
 そのくらいここは清潔で、家庭的な温かい空気が流れている。
 玄関を目前にして、ザイオンが体をビクつかせ目を丸くした。
「どうかしたか?」
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