拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「いけません!」
「っ!?」
 俺の腕が彼女に触れる直前で、拒絶の言葉と共にひらりと身を躱されてしまう。俺は踏み出した体制のままピシリと固まり、愕然とティーナを見る。
「さっきまで患者さんの看護にあたっていた私と、そのまま接触するのはいけません! 感染対策をお忘れですか!?」
 毅然と言い切られ、たじろぎつつ腕を引っ込めて謝罪する。
「す、すまん」
「……あ。私こそ、すみません。ただ、毎日ここで重篤な患者さんの看護をしていると、病の恐ろしさと感染防止の対策の重要性が嫌でも頭と体に刷り込まれてしまって。つい、強い言い方をしてしまい申し訳ありません」
「いいや、正論だ。俺の行動が迂闊だった。君が正しい」
 自信と誇りに満ちた表情は、十日前に王都で別れた時には見られなかったもの。この短い期間で、彼女はひとつ殻を打ち破ったように感じた。
「あの、よかったら少し表を歩きませんか。今の時間は少し人員に余裕があって、ちょうどひと息つこうかと思っていたところなんです」
「いいな、そうしよう」
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