拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 おそらく精霊のなせる業だろう。プルプルと首を振って水気を飛ばしただけで、ラーラはすっかりもとのボリュームを取り戻していた。普通のネコにはあり得ぬ速乾性である。
「すみません、お待たせしました」
「その、ずいぶんと入念にしているんだな」
「はい! こういった積み重ねがなにより大事ですから」
 ブスッとしたラーラをなんとも言えない思いで見下ろしつつ、ティーナの心意気自体は正しいものなので首肯して賛同する。
「まぁ、そうだな」
 ザイオンが近づき、しょぼくれたラーラの頭を不器用に撫でる。ラーラはチラリとザイオンを見上げ、甘えるように頭をすり寄せていた。
 診療所を背に歩きだしてしばらくしたところで、ティーナがポツリとこぼす。
「ファルザード様って、すごいです」
「すごい?」
「はい。私がここに来てからの一週間。私含め、介助者から感染者はひとりも出ていないんです」
「ああ、それは聞いているが」
 それと、俺がすごいという先の発言がどう繋がると言うのか。彼女の真意が読めない。
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