拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「ええ。怖くても逃げ帰る選択肢はありませんでした。それは、その方を慮ってのことじゃなく、私自身が厳しい現実から目を逸らしたくなかったから。できるところまで駆け抜けて、それでも駄目だったら、その時に逃げたらいいと覚悟が決まりました。それを決心させたのは、ファルザード様。あなたです」
 彼女の言う『厳しい現実』というのは、おそらく病のことだけではない。暗にジェニスのこと、そしてなによりこれから彼女が対峙することになるだろうマリエンヌのことも、含まれているような気がした。
「ところで、なぜ俺なんだ?」
「初めてお会いしてからずっと、影から国を支え、民のために奔走するあなたの背中を見てきましたから。少しでも追いつきたくて、その隣に相応しくありたくて。そう思えば、自然と心が奮い立ちました」
「本当に、君の成長は目覚ましいな」
 いとし子とは、救国の聖女の代名詞。
 守るべきものと思っていたティーナも例外ではなく、見事に羽化し、俺の手などたやすく飛び越えてより高みへと羽ばたこうとしている。
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