拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 震える唇でなんとか発した声は、泣き濡れて掠れていた。けれど、耳にしたファルザード様は蕩けるようにそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「ティーナ……」
 甘やかに名前を呼ばれ、大きな手がそっとおとがいに触れる。彼のアメジストの瞳が滲むくらいに近づいたと思ったら、形のいい唇がしっとりと私のそれに重なった。
 初めての口付けは、温かで柔らかくて。そしてちょっぴり、涙で塩辛い味がした。

 そこからは、まるで嵐のただ中にいるかのように目まぐるしかった。
「ザイオン、お前に頼みがある」
 対策本部になっている部屋を出たファルザード様は、集会場の庭でラーラに寄り添うザイオンの姿を見つけると、開口一番にそう言って頭を下げた。
 ザイオンはファルザード様を見上げ、銀の双眸をキラリと光らせる。
『ニャー《我に頭を下げる必要などない。たったひと言それと命じてくれたなら、我は喜んで我がいとし子の願いを叶えようぞ》』
 我が子でも見つめるような慈愛を感じさせる表情でザイオンが答えた。
「ザイオン……」
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