拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 今はもう使われていない古い鐘楼は、高さ五十メートルを超えている。上空に向かって風を吹かせるのなら、むしろもってこいなのではないか。
「なるほど! あそこなら、それなりの広さもある。よし、そこにしよう!」
 ファルザード様を先頭に、私とザイオン、ラーラも続く。そうして辿り着いた鐘楼の目の回るような螺旋階段をやっとの思いで登りきった先には、満点の星々と月明りに照らされたアゼリアの町が広がっていた。
 ただし今は、その景色に感動している場合ではない。ファルザード様がさっそくぐるりと囲まれた鋸壁の縁に立ち、上空に向けて両手を差し伸ばす。神秘的な紫色の瞳が、月明りを受けて煌いた。
 ザイオンは怯む素振りも見せず、鋸壁の凸部にトンッと乗り上がり、ファルザード様の挙動を見つめる。私も息をのんで見入った。
 ファルザード様が意識を集中させるように目を瞑る。そうしてカッと見開いた、次の瞬間──。
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