拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 彼の黒髪がふわりと空気を孕んで舞い、その指先から空気の渦が巻き起こる。発生した空気の渦はどんどん大きくなって、町全体を覆うほどに広がる。やがて渦を描いていた空気の流れは心地いい風に変わり、王国全土へと吹き抜けていく。
「……すごいわ!」
 なんて魔力なの!
 十三年間、ファルザード様がずっと封じていた魔力のあまりの威力に驚く。彼が身の内に、こんなに大きな魔力を秘めていただなんて……!
 魔力を操るファルザード様の様子をジッと眺めていたザイオンの銀の両目が、キラキラと光りだす。漆黒の毛に覆われた全身は、まるで光の粒子でも纏っているかのように淡く発光していた。
 直後に、ザイオンの纏う光の粒子がパァッと弾ける。深更の空に、清廉な光が風に乗って乱舞する。
 ……綺麗!
 その様子は、圧巻のひと言だった。声をなくし、幻想的な光景に見入る。
 銀と紫が入り混じった光のベールが、人も家も、大地も川も、全てを包み込み、ゆらゆらと揺蕩う。
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