拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ファルザード様の前に相乗りさせてもらいながら、手綱を握る彼に話を振ったら、なぜか不可解な沈黙が返ってくる。
「どうかしましたか?」
 ファルザード様が現地で登用したという補佐官の青年は、こちらの要求を即座に理解し、話のひとつふたつ先まで読んだ上で答えてきた。打てば響く、頭の回転の速い人だと感心していたのだが、ファルザード様の見解は違うのだろうか。
「いや、たしかに普段から無駄口を叩かなければ、そう評せるかもしれんな」
「あら。寡黙な方かと思いましたが、実はおしゃべりな方だったんですね」
「さてな。もしかすると、しばらくは碌すっぽしゃべらんかもしれん。……憧れの聖女様に恋破れて、ずいぶんと消沈していたようだからな」
 馬上と言うのは、蹄の音や風を切る音で意外と声が聞き取りにくい。
「すいません、よく聞こえなくて」
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