拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 最後まで答えるよりも前、ファルザード様に背中と膝裏を支えられた。そのままファルザード様は私を横抱きにして、まるで重さを感じさせない動作で立ち上がる。
「あのっ! 重いですから、自分で……!」
「いいや、ダメだ。ここまでも長い距離走って、無理をしたはずだ。……それに俺が、こうしていたい」
 ボンッと頬に朱が散って、一気に全身の体温が上がる。
「っ! ……はぃ」
 蚊の鳴くような声でコクンと頷いてみえるのがやっとだった。全速力でここに向かって走っていた時よりもさらに、心臓が壊れそうに刻んでいるのを感じた。
 ここでふいに牧場主の姿が視界の端を掠める。彼は私たちから少し離れた床に突っ伏し、膝を抱えながらたまにビクビクと体を揺らしていた。
 すると、ここまで所在なさげに立ち尽くしていたライアンが気づいて駆け寄っていき、牧場主の背中をさすってやっている。
 その様子を眺めながら、既知感が浮かぶ。
 ……たしか以前にも、これとよく似た状況があった。
< 277 / 307 >

この作品をシェア

pagetop