拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 ピシャリと言い切られ、マリエンヌはバリバリと頭を掻きむしりながら叫びをあげた。
 叫喚の中にはティーナへの罵詈雑言が混じっているようだったが、既にまともな声になっていない。
 ……聞くに堪えんな。
 俺はティーナの腰を引き寄せて、マリエンヌに背中を向ける。ティーナは俺に促されるまま、静かに従った。
 獣のような慟哭が木霊す地下牢を後にして、ふたり並んで廊下を進む。その途中でふいにティーナが足を止めたと思ったら、俺を見上げて唇を開いた。
「……ファルザード様、甘いでしょうか。お姉様に憎まれていると知った今でも、私はお姉様を嫌いになれないんです。不毛な期待かもしれないけれど、それでもいつかお姉様と分かり合える日がくることを願わずにいられない」
 そんな『いつか』の未来はこない。ティーナ自身そんな未来があり得ないことは百も承知だろうし、俺も分かり切っていた。
 しかしティーナの切ない告白を受けて、俺は彼女の腰を抱くのと逆の手でそっとストロベリーブロンドの髪を撫でながら答える。
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