拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「ああ、未来は無限だからな。その中には、君とマリエンヌの進む道が交わる未来だってあるだろうさ」
 俺から見れば、けっしていい姉ではない。むしろ人として最低の部類の女と言っていいだろう。しかし、ティーナにとってマリエンヌは十七年間眩い憧れであり、優しい自慢の姉だったのだ。
 それを否定するつもりはなかった。
 耳にした彼女は訳知りにフッと微笑み、子ネコのように俺の胸にコテンと頭をすり寄せた。
「ありがとう、ファルザード様」
 掛け替えのない最愛の温もりをそっと懐に抱きしめながら、これまでの怒りや憤りとは別の初めての感情が湧き上がる。愛し愛される喜びを端から排除し、自己愛にしか生きられないマリエンヌという女が、ひどく哀れな存在に感じられた──。

◇◇◇

 戴冠式から一週間が経った。
 いまだ戴冠式の興奮冷めやらぬ王都の外れ、東地区のメーン通りからさらに奥に進んだ先にある孤児院には、穏やかな時間が流れていた。
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