拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 見上げた青く澄んだ空には白い雲がゆっくりと流れ、小鳥たちがさえずりながら飛び交う。初夏の風景だ。
 ……日差しもだいぶ夏めいてきたわね。
 夏の盛りを目前にして、花畑の薔薇は一番花のシーズンを終えていた。私は美しく咲いてくれたことに感謝しつつ、手入れを始めようとして──。
「こら、花がらなら俺が取る。ティーナは座っているんだ」
「きゃっ」
 後ろから聞こえてきた声と同時に掬うように抱きあげられて、体がふわりと宙に浮く。縋るものを求めて、咄嗟に逞しい肩に掴まる。
 もちろん、彼が絶対に私を落としたりしないことは分かり切っているのだけれど。
「まったく、伸び上がっては危ないじゃないか」
 お小言をこぼしながら問答無用で私をベンチへと運んでいくのは、私の愛すべき旦那様。国民からの圧倒的な支持を受けて、絶対王者として君臨するファルザード様だ。
「危ない、ですかね?」
 たしかに、少し高いところの花がらを取ろうとしていたが、そんなに危険な行為だろうか?
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