拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 俺の髪色は、この国では珍しい宵闇を紡いだような黒。ザイオンの体毛と同じ色だ。この色を持って生まれてきた瞬間から、きっと俺の運命は決まっていたのだろう。
 そんなことを思いながらスッと瞼を閉じれば、段々と強さを増す雨音に導かれるように、意識が深い眠りの世界に沈んでゆく。
 そうして訪れた眠りの中で、俺は望まずとも強制的に〝あの日〟を追体験することになる──。

***

 ザァザァと雨が降る。
 冬の寒さも次第に落ち着き、日ごとに暖かさを増す浅春。デリスデン王国では急速に発達した低気圧によって春の嵐が発生し、未明から列国中が激しい暴風暴雨に襲われていた。
 横殴りの雨は家々の窓を叩き、時折稲妻が生き物のように空を走っては、大地が割れるような轟音を響かせている。誰しもが室内に籠もり、嵐の通過を静かに祈る。
 そんな悪天の中。デリスデン王国の離宮の一室で、十四歳の俺は、悲鳴すらあげられず壊れたように体を震わせる九歳年下の従弟、ジェニスを腕に庇って立ち尽くしていた。
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