拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 腕の中に抱きしめたジェニスは、惨状を目の当たりにしたことで、既に正気を保っていないのではないかと思われた。
 俺たちの周囲には、闇に肌を黒く染められ、漆黒の靄に覆われた黒装束の男たちが倒れ伏す。既に彼らの息はない。
 王太子である俺と継承権代三位のジェニスを亡き者にせんと彼らがこの部屋に侵入してから僅か二、三秒。そんな瞬きほどの間に、彼らは己が死んだことすら理解せぬまま、俺が放った闇魔力によって一瞬のうちにあの世に逝った。
 けっして俺が意図したことではなかった。しかし、彼らを殺したのは他でないこの俺で──。
「ゥグッ!」
 おぞましさに込み上げる吐き気を、寸でのところで堪える。
 胸を占めるのはこの惨状をなしてしまった己自身への怯え、怖れ、そして絶望。いまだ大人になり切れぬやわな心が耐え切れず悲鳴をあげていた。
 その時だ。頭上から漆黒のなにかが俺たちのもとに降り立った。
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