拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「怪我くらいしたって構わなかった!」
『ニャー《馬鹿を言え。そなたは我のいとし子ぞ。そなたに怪我を負わせるなど、そんなのは容認できん》』
 もしかするとこの惨状だからこそ、逆に油断があったのかもしれない。普段なら人の目や耳のある場所でザイオンと言い合うなど絶対にしないが、今ばかりは周囲に意識を向ける余裕もなくザイオンと言葉の応酬を繰り広げていると──。
「……魔物だ」
 てっきり全員が事切れたとばかり思っていたが、黒装束の男のひとりがヒュウヒュウと雑音混じりの呼気とともにこぼす。
 男の言葉を聞き留めて、ビクンと肩が跳ねる。すっかり意識がそちらに向いていたために、ジェニスの瞳が声に反応して僅かに揺らいだことには気づかなかった。
「世に災いなす……悪しき、魔物……ァグッ!!」
 賊の男はその声を発したのを最後に、今度こそ事切れてしまう。ゆえに、『魔物』というのがなにに対して放たれたものだったのかは永遠に分からない。
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