拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 前国王の急死に際し、その年若さや当時の隣国との差し迫った状況などが考慮され、最終的に王位に就いたのはジンガルドだったわけだが。それでも今なお、正当な王位継承者は彼だったと密やかに語り継がれる存在だ。
 そんな彼が、まさか目の前で違法な麻薬取引の摘発をしていようとは誰も思うまい。
「ファルザードと呼んでくれ。爵位で呼ばれるのはどうにも馴染まない。なにぶん十三年間、表舞台に一切出ていないものでな」
「まぁ、そうなのですか?」
「ん? その所作や言動を見るに、ティーナは貴族の令嬢だろう? それなりに知られている話だと思ったんだがな。君がこれまで参加してきたパーティなどでも、俺を見かけたことはないはずだ」
「……すみません。一応貴族令嬢ではあるのですが、私も社交界とは縁が遠くて。存じ上げませんでした」
 気まずく言い淀む私を彼は不思議そうに見ていたが、それ以上追及はしてこなかった。
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