拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「そうか。いずれにせよ、公爵の看板を掲げて歩く気はさらさらないからな。やはり俺のことはファルザードで頼む。それに、普段から貴族らしいお上品な暮らしはしていないんだ。俺に対し過剰に謙ったり丁寧にしたりせず、自然体の君で接してくれたら嬉しいよ」
 ……自然体の私。彼が口にしたその一語は、スーッと私の中に染み入った。
「分かりました。では、今後はファルザード様と呼ばせていただきますね」
 最初の出会いが出会いだったからか、彼に対し緘黙の症状は出なかったが、それでも身分を聞かされれば当然のごとく身構えた。
 それが彼の言葉でスルリとほどけ、気づけば自分自身驚くほど気負わず、滑らかに答えていた。
「お、いい感じだ」
 精悍な顔をクシャリとさせて笑う彼から、なぜか視線が離せない。
 ……ファルザード様は不思議な人だ。彼の人徳のなせる業なのか。王族とか、貴族とか、そんな垣根を越えて、私の心の内に容易く入り込んでくる。
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