拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 精霊のいとし子という事実は重く、その影響力は多大だ。俺は〝あの日〟の遥か以前よりザイオンを得て、いとし子として過ごしてきたが、人智の及ばぬ精霊を御するのは並大抵の苦労ではなかった。……いいや、正確には御しきれずに、今も苦肉の策で魔力を封印して暮らしている。
 さらに言えば、過去の記録に数人残っているいとし子は皆女性で、全員が救国の聖女として名を残す。しかしその誉れの裏で、本人の意に反して国に囲われてしまったり、権力者に望まれることが多かった。
 俺は男であったし、亡き生母の助けもあって、なんとかいとし子である事実を周囲に認知されずにこられたが、ひと度女性が異能の魔力を発動させればそうはいかないだろう。
 ティーナに聖女の宿命を背負わせるのは、あまりに酷だ。一生知らずに過ごせるのなら、その方が彼女のため。
 ……だからそう。この件に関し、俺はなにも告げるまい。
 無視を決め込む俺を見上げ、ザイオンがヒョイと肩を竦める。
『ニャー《ヤレヤレ。日和見なことだ》』
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