拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
 大判の紙には、ピアノの前に優美な微笑みを浮かべて座るお姉様の姿が描かれている。そのすぐ隣にはもうひとり、褐色の手に両国の国花を束ねたブーケを握って立つ、シリジャナの皇太子キファーフ殿下の姿があった。
 心なしか殿下がお姉様に向ける眼差しは甘い。
「そうか。演者に推されたのは君の姉君だったか」
 絵姿を見上げて頷くファルザード様の表情が、なぜか少し厳しく感じる。その言い回しにも、若干の含みがあった。
 どうしたのかしら?
 いずれにせよ、お姉様は両国国歌の演奏という大役を立派に果たし、式典は大成功のうちに幕を閉じたという。
 屋敷の居間には、その日の晩に国王夫妻から届いた連名の感謝品が飾られている。両親はシェルフォード侯爵家の誉れだと喜び勇み、使用人らにも祝儀を配った。屋敷全体の浮き立った空気は、式典から三日が経った今も治まっていない。
 きっとこの後のお茶の時間も、式典でお姉様がいかに素晴らしかったかが話題の中心になるだろう。
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